■豊島区の江戸べっ甲職人

Takuya Miyamoto

宮本 拓哉

 

Yuko Miyamoto

宮本 裕子

 

べっ甲とは

熱帯に棲むウミガメの一種・タイマイ甲羅の加工品で、背と腹の甲を構成する最外層の角質からなる鱗板を10枚程度に剥がして得られる。色は半透明で、赤みを帯びた黄色に濃褐色の斑点がある。日本では黄色の部分が多いほど価値が高く、西洋では褐色部分が多いほど価値が高く、工芸品の素材に使われる。

鼈甲を加工して作る鼈甲細工の歴史はかなり古く、中国で生み出された技術で6世紀末頃から製作されており、中国の前漢の武帝(紀元前100年代)が設置した楽浪郡の遺跡から象牙の櫛が出土しており、また秦の始皇帝の王冠の一部もべっ甲で装飾されていたとも言われています。

日本には飛鳥時代頃に伝来し、正倉院宝物の中に発見された「螺鈿紫壇五絃琵琶(らでんしたんごげんびわ)」等に装飾の一部としてみられ、それが日本最古のべっ甲細工と言われています。そして伝来品と共にその技法も伝わりました。

長崎に貿易で唐船やオランダ船から鼈甲の材料と加工技術が伝来したことで国内生産が始まり、「長崎べっ甲」が生まれました。大阪から江戸にも伝わり、今日では三大産地として「長崎べっ甲」「なにわべっ甲」「江戸べっ甲」があります。

⬛︎江戸べっ甲について

豊島区の伝統工芸「江戸べっ甲」は、江戸時代に入り、長崎の出島に出入りするオランダ人、中国人からもたらされる原料となるタイマイを使用し、べっ甲細工として発展したものが、職人とともに江戸へと伝えられ、長崎では主に飾り物を主体とする工芸品に対して、江戸では、眼鏡や櫛(くし)、笄(こうがい…髪飾り)といった日常生活品として発展したことが特徴として挙げられます。

タイマイの持つ独特の風合い、肌触りが、肌身に付けた時の感触を和らげ、高級品でありながらも、広く親しまれ発展してきました。温度によって柔らかく素材が変化し、肌なじみの良い性質が、肌身に付ける装身具として最適ではありますが、薄い甲羅から日常で使用できるだけの強度を保持する製品は、職人の匠の技なくしては作ることができません。

甲羅の一つ一つに名称が付けられ、場所によって用途も違います。一つの細工を造るために、模様の変化に注意しながら、水と熱を利用して甲を何枚も重ねて圧着し、何層にもなった一枚の板(生地)を造るところから製作が始められます。温度変化に脆弱な素材を扱う 細工の工程では、植物のシダの一種、木賊(トクサ)や鹿角の粉が使用され、繊細な研磨の工程を繰り返し、型作りから、美しい模様、光沢が生み出されます。

長年培われた職人の感と匠の技によって、繊細かつ複雑な工程が繰り返され仕上げられる「江戸べっ甲」だからこそ、長年使うことのできる逸品が生み出されるのです。

〜庁舎丸ごとミュージアム第一期解説より抜粋〜
**転載禁止**

◎鼈甲細工が出来るまで

鼈甲細工はタイマイの甲羅や爪を加工していることから多くの工程を経て出来上がります。
そして作られる商品によって使う甲羅の部位が違ってきます。

甲羅のどこを使うか(部位ごとの名前)

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①鳶甲(とんび)/首甲(くび)
②背甲(せこう)
③船甲(ふな)
④量甲(おも)
⑤結甲(むすび)

①〜⑤の部位は散斑(茨斑)、トロ甲、黒甲、上トロ甲等の主な材料となります。

⑥爪甲(つめ)/縁甲(えんこ)
⑦肚甲(はら)

⑥・⑦は白甲やオレンジ甲などの主な材料となります。

制作工程

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1)生地選び
 数ある部位から製品に合わせたものを選びます。
2)地どり→切り抜き(別名:型取り)
選んだ生地にマーキングをした後にノコギリで切ります。色合いや模様など美しさを生かす大事な工程の一つとなっています。
3)地あわせ
 何枚かの甲羅を継ぎ合わせるので、色合いなどを確認しながら一定の厚さになるように段取りします。
4)だめどり
 継ぎ合わせた時に、表面に油や汚れが少しでもあるとくっつかないので、ヤスリや小刀などを使用して不純物を綺麗に取り除いて表面を滑らかにします。
5)仮付け
 継ぎ合わせのズレを防ぐために、仮付けをします。だめどりをした甲羅を重ねてピンチではさみ、熱湯にいれることにより癒着します。製品の大きさによっては紐で結んだりもします。
6)プレス
 仮付けした鼈甲を水に浸し、熱した鉄板でプレスします。鼈甲が持つニカワ質の作用によって、継ぎ目が分からなくなるほど完全にくっつけます。鼈甲細工は、のりなどの接着剤を使用しません。
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7)下地描き
 素材の特徴を活かしながら下絵を描きます。
8)型入れ
 曲面のある作品は、熱湯に入れ型にいれて形成していきます。
9)彫刻
 彫刻刀を使用し、下絵にそって彫る工程です。今では電動エングレーバーの使用が主流となっています。
10)磨き
 荒磨きで表面の細かいキズ取りをします。磨くことによっでべっ甲独特のアメ色の光沢を出していきます。

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12)組み立て
 金具などをつけ、パーツを組み立て、作品の完成です。
〜Mikoshi Storyより抜粋〜