伝統工芸とSDGs

今世界的に進められている事業にSDGsというのがあります。ここ数年で、至る所で見聞きするようになりました。小学校などでもSDGsを授業に取り込んで、子供たちも日々SDGsについて考えながら生活しています。
SDGsとはSustainable Development Goalsです。横文字のオンパレードですね。持続可能な開発目標という事のようです。では具体的に持続可能な開発目標というのは何でしょうか?

そもそもSDGsというのは17の目標と169のターゲットで構成されており、採択された文章の一部が『SDGs』で、正式には『Transforming Our World(私たちの世界を変革する)というそうです。世界193カ国が、私たちの世界を変革するということに同意した上で掲げられた、変革するための手段がSDGsということになるのです。


上の図が、よく見かける17の目標を示したものです。それぞれの目標を達成するために、私たちに何ができるか、というのを日常的に考え、実行しながら生活することで達成に持っていくという事ですね。良く考えるとそれぞれの目標も結構抽象的で、既に日常の中にSDGsが取り込まれているので無いかな??と、感じます。

そもそも日本はMOTTAINAI(もったいない)精神が根付いた民族でもあるので、遥か昔からSDGsな生活を送って来ていると思います。

SDGsについて深く掘れば掘るほどいろいろな情報が出て来てしまいますので、詳しくは他サイトなどでご覧いただくとして、本題の『伝統工芸とSDGs』についてちょっと考えてみたいと思います。


この写真は豊島区区役所、区長室前にある伝統工芸保存会の展示スペースに設置されているものです。豊島区は『SDGs未来都市』『自治体SDGsモデル事業』にも選定されているSDGs先進都市で、区内ではSDGsに関する様々な事業が行われ、豊島区もそういった事業者や人々を応援しています。

筆者も工芸を生業とする身ですが、伝統工芸こそSDGsだとは毛頭考えていませんでした。しかし、自身の職業がSDGsだと思うと悪い気はしません。

多くの伝統工芸の技や技術は親方から弟子へ、そしてまたその弟子へ・・・・と、長い長い年月をかけて受け継がれて来ています。しかし、技術の進歩に伴い安価で手軽な使い捨ての時代の波に押され、一つの物を大切にして、世代を超えて使い続けるという習慣が当たり前ではなくなって来ています。

昔はどの家にもあった藤の椅子など、今やどこで入手できるのかも調べないとわかりません。長年使って、家具が美しい飴色になる事の楽しみや、おばあちゃんの若い頃に想いを馳せながら、お母さんも着た成人式の着物に袖を通す事も、あるいはお祝いに着物を仕立ててもらう事も今やほんの一握りの人たちだけの楽しみになっているのです。

 

伝統工芸の職人たちは、長く、大切に使ってもらえるようにと、心を込めて丁寧に制作します。時には使っていただいているところを想像したり、ずっと使って味が出て来た頃を考えたりしながら、一つ一つに愛情を注いでいるのです。

しかし、先にも述べたように、そのようにして作られた品物が活躍する場面は年々減って来ており、そうすると、それを生業にしたいと思う人ももちろん並行して減り、今は大切な技術を継承する事も難しくなって来ています。

以前、ある教員に言われた一言がとっても心に刺さったのでここで紹介したいと思います。

伝統工芸は素晴らしいんです。でも、子供達がこの職業に夢を持った時、胸を張って勧めるのは難しい。

どういうことかと言うと、「伝統工芸士になっても食べていけない」と言う意味です。
悲しいけれど、それが現実になりつつあるのは否めない事実なのです。

生活様式が変われば、生活文化も変わります。SDGsって何でしょう?変革って何でしょう?新しい文化を取り入れることはとても大切なことですが、今あるものを大切にするのもまた、それと同じ、あるいはそれ以上に大切なことなのです。

「伝統工芸の技術は消滅してしまったらもうおしまい」と、ある工芸士の方が仰っていました。私たち豊島区伝統工芸保存会でも何とか技術を継承していこうと試行錯誤していますが、より多くの方が、私たち日本人が持っていた文化・伝統・習慣を返り見て、日常に取り戻していただかないことには、どうしようも出来ない事もたくさんあるのです。

「伝統工芸こそがSDGs」と、いうならば、今一度周りを見渡し、日本の誇る伝統の技術をどのようにして継承していけるかを、是非一緒に考え、そして、今いる子供達やその孫達が、伝統工芸士という夢を実現できるよう行動へとうつして参りましょう!


今の言葉を借りて言うならば、『まさに、それこそがSDGs!!』だと、筆者は考えるのです。

 

おすすめ記事